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ホットスナックを見る時間は、永遠に足りない

ホットスナックを見る時間は、永遠に足りない
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レジ横のショーケース。ガラスの向こうで、からあげとフランクとアメリカンドッグが、静かにこちらを見ている。いま、私の中では激しい会議が開かれている。しかし会議の持ち時間は、悲しいほど短い。

あの数十秒が好きだ。というより、あの数十秒が足りない。ガラス越しに並ぶ揚げ物たちを、本当は一つひとつ吟味したい。今日の自分の胃袋の状態、財布の中身、夕飯の予定。それらを総合的に勘案して、最適な一品を導き出したい。真面目にやれば、5分はかかる作業だ。

しかし現実は、そんな悠長を許してくれない。私が立ち止まった瞬間から、後ろで静かにカウントダウンが始まる。誰かがレジに並んだ気配。カゴを持ち直す音。咳払い。実際にはみんな別に急いでいないのかもしれないが、こちらの体感時間は容赦なく削られていく。

実況 / 決断までの7秒間

1秒目、ショーケース全体を俯瞰。2秒目、からあげ系に照準。3秒目、「でも今日は油もの控えるって決めたよな」という良心が割り込む。4秒目、それを黙殺。5秒目、新作フレーバーの存在に気づいて動揺。6秒目、後ろの人が一歩前に出た気がする。

7秒目。「……からあげクン、レギュラーで」。

結局いつものだ。あれだけ悩んだのに、口から出てくるのは毎回同じ言葉である。新作は? さっき気になっていたスパイシーなやつは? 会議で出た議題は、すべて議事録ごと闇に葬られた。

店を出て、いつもの味を噛みしめながら思う。うまい。文句なくうまい。だから何も間違っていないのだが、心の片隅に、選ばれなかった新作のことがちらついている。次こそは、と誓う。この誓いを、私はもう何十回と繰り返している。

ごくまれに、店内に誰もいない瞬間に出くわすことがある。深夜だったり、平日の妙な時間だったり。そういうときは、心置きなくショーケースの前に立てる。じっくり見られる。腕を組んでもいい。しゃがみこんで下段を確認してもいい。

ところが不思議なことに、時間が無限にあると、逆に決められない。3分ほど眺めたあげく、結局いつものを頼む。誰にも急かされていないのに、同じ結論にたどり着く。あの数十秒のプレッシャーは、実は言い訳だったのかもしれない。

✦ きょうの結論 ✦
「時間が足りないから、
いつものを頼むのではない。
いつものが、うまいのだ。」
── ショーケースの前で腕を組んだ人より

それでも、あのショーケースの前に立つ数十秒を手放したくない。あそこには、選ばなかった無数の可能性が並んでいる。ピリ辛のやつ、大きいやつ、期間限定のやつ。全部おいしそうで、全部食べられない。だから毎回悩む。悩んで、結局いつものを頼む。

これはたぶん、揚げ物を買っているのではなくて、「悩む時間」を買っているのだと思う。数百円で、真剣に迷える。しかも間違いようがない。どれを選んでもおいしいのだから、これほど安全な悩みもそうない。

🌙 明日も、7秒の会議を開く

次こそ新作を頼もう。今度こそ冒険しよう。そう思いながら、明日も私はショーケースの前で腕を組み、後ろの気配に急かされ、いつもの一品を口にする。

ちなみにこの原稿を書きながら、いま無性にからあげが食べたくなっている。コンビニは、こういうところが本当にずるい。